20121113

蚕の産卵

余一氏のパソコンデスクの脇に置かれているこの箱。
彼が春から世話をしている蚕ボックスです。

中では羽化した蚕が成虫となって羽をパタパタとさせています。
紀元前から人に飼われてきた蚕。
羽の退化が進み、もう飛ぶことができません。

そして羽化して、交尾が終わると雄はすぐに死に、
雌はそのあとの産卵が終われば死にます。

羽化してからはとても短い命です。

蚕はこのようにサナギから羽化すると、
繭を内側から溶かして出てきます。

絹糸を採取するときはこの状態になる前、
つまり中にサナギがある状態のものを熱湯につけます。
その際は当然、中の蚕は死んでしまいます。

こちらの画像は、産みつけられた卵です。
産卵直後のものはクリーム色をしています。

時間が経過した卵は画像中央のように黒い色になります。
通常はこのサイクルが2回なのですが、
今年は残暑がスゴかったので3サイクルしました。

最後の命を、退化した羽を羽ばたかせて終えようという蚕。

なんかね、こうやってずーっと育ててるでしょ。

孵化したイモムシに毎日桑の葉をあげて…
繭になるところをすごいなぁって観察して…
その繭から小さな蛾が出てきて卵産んで死ぬ…

退化してしまったから箱から逃げることも出来ない。
ずっとこんなふうな箱の中で生まれて、死んでいく、また生まれる。

その様子をさ、何回も見るわけよ。
ある意味、神様みたいな視点で箱の上から蚕を見ちゃってる。

この儚い命の営みを見てるとね、
俺の力でもっと良くできないかなって思う。

でも、なんにもできないんだ。

桑の葉以外の美味いもの食べさせたくても、
寿命を延ばしてやりたくても出来ない。
蚕は蚕、俺は俺なんだよね。

もう野生に戻れないから、俺がちょっと手伝ってあげるだけ。

そのうち、この蚕の繭から糸を頂戴しようとも思ってるから、
ギブアンドテイクかなっていう感覚もある。

今は直接お世話になってないかもしれないけど、
大昔、俺の先祖が世話になった動物だからね。
桑の葉をあげるときは心の中で「お互いさま」って唱えてたよ。

実は俺もひょっとしたら何かの箱の中にいて、
もっともっと大きな存在にいろいろと世話されてるのかもね。

そのように長々と語る余一氏はどこか儚げで、
それでいてとても満足げな表情を浮かべていました。

パソコンしているすぐ横、蚕がパタパタして死んでいくその状況下で、
私は「やっぱキモいな、この人」と思いました。